製薬会社ブリストル・マイヤーズ(東京)は27日、自社の慢性骨髄性白血病の治療薬「スプリセル(一般名ダサチニブ)」に関する東京大などの臨床研究で、研究計画の作成などに社員が不適切に関与し「国の倫理指針に違反する疑いが強い」とする第三者機関報告書を公表した。(中略)報告書によると、社員が研究計画の下書きを作成し、計5千万円の寄付をするなど準備段階から労務提供や経済的支援をした。一方で研究計画書には「製薬会社からの資金提供はない」などと記載し、患者にも説明がなかったとみられる。ブ社役員は研究への社員の関与を認識しており、組織的だった。URL:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO78961770X21C14A0CR8000/
第三者委員会による調査報告書の本文はこちら(PDF注意)です。P56からの引用になりますが、以下のノバルティス(文中ではQ社)のグリベック(Q1剤)とタシグナ(Q2剤)との競争環境によるインセンティブの誘因がすべてを物語っている気もします。
CML は症例数が限られた疾病であり、国内で承認されている治療薬は、Q 社の Q1剤及び Q2 剤と、BMKK のダサチニブしか存在せず、その中で、本件臨床研究の準備が行われていた 2010 年末から 2011 年上半期頃は、Q2 剤及びダサチニブがファーストライン(一次治療薬)としての効能について製造販売承認を取得した時期であって、第一世代の Q1 剤から第二世代の Q2 剤及びダサチニブへの切替えがまさにこれから行われるであろう時期であった。このような大きな構図の中で、Q1 剤を投与している既存の患者を Q2 剤に切り替えるかダサチニブに切り替えるか、あるいは毎年限られた数しか発生しない新規患者について Q2 剤を投与するかダサチニブを投与するか、という「取るか取られるか」の激しい競争関係が Q 社との間に存在した。
もちろん、本件臨床研究に BMKK が協力した背景には、製薬会社として医師に対して薬剤に関するより幅広い情報を豊富に提供できるよう、副作用を含めた多様な視点からのダサチニブに関するデータを収集するという目的があったことは事実である。
しかし、他方において、以上のような Q 社との CML 治療薬市場における激しいシェア獲得競争の中で、患者に一定期間ダサチニブを処方して行われる本件臨床研究がそれ自体シェア獲得のための手段として利用されていた側面は否定できない。
(強調・下線は当ブログが追加)
ビジネスとして考えれば、一人の「お客」(という書き方をあえてしますが)を奪えば毎年数百万円以上の売り上げが立ち、製造原価は少なくほとんどが粗利でしょうから、それこそCustomer Acqusionに一人当たり数十万円を突っ込んでも全然ペイする、いや死なずに慢性化することを考えると数百万円を支払っても全然ペイしてしまいますね。これだけライフタイムバリューの将来価値が大きい事業だと、プリンタや携帯電話のようにイニシャルコストを下げてプラスそれしか使えないようにして囲い込むのが事業戦略としてはまっとうなわけで、それと倫理の問題をどうすり合わせるのか、人の生き死にをお金にするには、大組織であることが(イノベーションという観点からもですが)もうこの業界には向いていない気もします。