(以下引用、下線は筆者)
チームは過去約60年間、フランスと英国、米国の原発や核燃料施設などで1年以上働いた約30万8300人の健康状態と被ばく線量の関係を統計的に分析した。結果は、被ばくがなくても白血病を発症する可能性を1とする「相対リスク」を考えた場合、1ミリシーベルトの被ばくごとに相対リスクが1000分の3程度上昇するという内容。100ミリシーベルト以下の低線量でもリスクはなくならないとした。高線量でのリスク増についてはもはや科学的には異論がないところであるので、果たして低線量でもリスクが線量に比例するのか、それとも身体の治癒能力がまさり低線量ではリスクが増えないのか、といった論で二分されていると理解していました。
元論文はおそらくこちらです。
Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study
そして問題のチャートがコチラ。横軸が累積線量(cumulative radiation dose)、縦軸が相対リスク( a 2-year exposure lag assumption and death caused by leukaemia excluding CLL)になります。
Relative risk of leukaemia excluding chronic lymphocytic leukaemia associated with 2-year lagged cumulative red bone marrow dose |
上下の幅は、相対リスクの90%信頼区間(統計的に10回に9回はこのレンジ内に収まる)ですが、論文では低線量と白血病の相関関係の強い証拠と結論付けていますが(this study provides strong evidence of an association between protracted low dose radiation exposure and leukaemia mortality.)、90%の統計的有意のレベル(10回に1回の誤差の可能性では高すぎるという判断で、通常は95%ないし99%というより高い信頼区間でサイエンスの議論はなされる)でも100mGy以下で傾きがゼロ(=低線量ではリスクが増えない)という仮説をこれでは棄却できていない要に見えます。
こういう議論は、一般記事になると漏れてしまうところですが、政策判断をする上では重要なことだと思うので、論文が結論付けるままのほぼコピペではなくもう少し正確ないし丁寧なコミュニケーションを、少なくとも大手マスメディアには期待したいところであります。