2015年9月11日

フラワー・オブ・ライフ(著:よしながふみ)に出てくるのは「どの」白血病か

「白血病」にかかり、姉からの「骨髄移植」を経て高1に復帰した主人公・春太郎を中心に、高校一年生の一年間を書いたよしながふみ先生の名作「フラワー・オブ・ライフ」(単行本版で全4巻、文庫版で全3巻)を読みました。以下、クライマックスについてネタバレがありますので未読の方はこのまま本屋に行ってご購入・読破の上でご笑覧ください。


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CML患者としては、どの白血病なのかが一患者としては気になるところであります。単行本版1巻の出版年月が2004年4月なので、慢性骨髄性白血病なら既にグリベックが2001年に承認されているのでおそらく造血幹細胞移植には至らないでしょう。とすると、「急性白血病と慢性白血病の比は約4:1で」あり、「急性白血病の内、骨髄性とリンパ性の比は、成人では約4:1、小児では逆に約1:4」であることから、マンガのケースは小児でもあるので急性リンパ性白血病(ALL)でしょうか(日本成人白血病治療共同研究グループ) 。

小児ですと、現在では「小児の急性リンパ性白血病は、現在では90%が治癒可能になっており、そのうち70%以上は化学療法のみで治癒します。残りの20%弱は、造血幹細胞移植を併用して治癒」するそうです(gooヘルスケア)。残念ながら移植後の生存率までは調べられませんでしたが、概ねマンガの示すところ(5年90%)あたりとすると、初期のイマチニブの結果(7年93%)に近いものがあります。(ノバルティス, 2008年)
「死亡率は一割」という言霊(フラワー・オブ・ライフ (4) , 2007年)

このクライマックスのシーンではその主人公の受け止め方がなんで自分が告知されたときとこんなに違うかな、と一瞬違和感がありましたが、あくまで骨髄移植という大変な選択をしたうえでのこの率なので、ただ毎日グリベックを飲むだけの自分が受け止めた「7年で1割が死ぬ」という確率論とはまた全然違うんだろうなとすぐに思い至りました。

同じ「白血病」患者でもこれだけ受け止め方が違うということでしょう。2015年の今ではグリベック服用のCML患者の死亡率は一般集団と変わらないという研究結果がいくつもあり、副作用さえひどくなければ気を病む必要が全くないので、そのギャップもあると思います。


でも、ここでのタイトルの意味を明らかにするくだりは本当に見事でした。
「10%なんてあんまりだ」という心の声(フラワー・オブ・ライフ (4) , 2007年)
(都立)高校生のいい意味でのきゃぴきゃぴ感をずっと描いてきた「フラワー・オブ・ライフ」という華やかなタイトルに実は込められていた死との対比をここで差し込んだからこそ、それを飲み込んだ最終回の春太郎と親友・翔太のやり取りと、最後の桜の散る下を歩く二人は、タイトルそのままの意味にふさわしい美しいエンディングでした。入学式を「グローバル・スタンダード」に合わせて9月にという議論もありますが、別れと出会いの季節に桜が重なることを考えると、やっぱり3月卒業、4月入学がうつくしいようにおもえてなりません。

クリエイター(マンガ家)になること、家族との関係、友人関係、等々、短い4巻の間にぎゅっと無理なく詰め込んだ名作だと思います。よしながふみ先生、素晴らしい作品をありがとうございました。
桜の散る下を歩く二人(フラワー・オブ・ライフ (4) , 2007年)