2012年1月9日

「2012/1/9 造血幹細胞移植研究 公開シンポジウム」の備忘録

造血幹細胞移植研究 公開シンポジウムを聴講して来ました。学会発表の抜粋のようんで手元資料がなく、理解が追いつかなかった点が結構ありましたが、ポイントだけでもメモしておきました。末梢血幹細胞移植についてかなりイメージが湧きましたが、一方で、昨年3月に本邦移植一号という点にも驚きました。

日時 2012年1月9日 3-5pm
場所 東京医科歯科大 湯島キャンパス

■厚生労働省 健康局 疾病対策課 臓器移植対策室 狭間
・とくに内容なし

■最近の移植傾向 名古屋大学 熱田由子
造血幹細胞移植とは難治性の血液悪性腫瘍の根治を目的に造血幹細胞を移植する再生医療の先駆け。造血幹細胞は骨髄だけでなく臍帯血、抹消血からも
・1974年から日本では移植開始、八十年代に免疫抑制剤の進化でドナーがレシピエントの白血病細胞を攻撃するGVL反応により予後が改善することがわかり、化学療法との組み合わせが進む
・直近でのおよその年間件数は自家移植が1500、同種移植が3000。同種移植のうち血縁者間は1000、非血縁者が2000。これは血縁で完全一致確率が1/3なので適正数
・また、同種移植のうち臍帯血移植は1000件でこれはヨーロッパ全土と同水準の多さ
・日本造血幹細胞移植学会の報告書で施設別移植件数を開示(年別報告書はコチラ、データの見方はコチラ

■新しい移植法 関西医科大学 池原進
・骨髄には造血幹細胞、間葉系幹細胞の二種類がある
骨髄移植では血液疾患や免疫不全のみならずリウマチなどの自己免疫疾患にも効果がある
・現在の骨髄移植の問題点は、移植片対宿主反応(GVHD)と生着不全(=拒否反応)の二つ
・GVHDを防ぐには、移植時に抹消血とその中にはいるリンパ球混入するのを防ぐ灌流法従来の腸骨に百本近い穿刺針を指して取らずに点滴ではない骨髄内骨髄移植
・生着不全を防ぐには、間葉系幹細胞も合わせて移植することで造血幹細胞も守られる
・現在、骨髄内骨髄移植のフェーズワンの研究中

■非血縁ドナーを選択するときのポイント 愛知県がんセンター 森島泰雄
ドナーのレシピエントの免疫担当細胞が正常細胞を攻撃するのがGVHDでこちらは抑えたい、一方で、白血病細胞を攻撃するのがGVL反応でこちらは望ましい
・HLA型の一部不適合の場合に、どのHLA型のミスマッチが悪い効果をもたらすかを解析し、HLA-CのミスマッチがGVHD重症化と死亡率悪化をもたらすためドナー選択順位のプロトコルに反映。なお、HLA不適合が多い場合はHLA不適合でもGVHDが少ない臍帯血移植を検討する
・さい帯血移植結果のデータベースが不完全で、不適合が多い場合の非血縁ドナーからの骨髄移植との比較(どちらの予後がより良好か)は今後の課題
・日本人間では不適合のあるドナーからの移植でも、白人間における同じ移植よりもなぜか予後がよい、原因は今後の研究課題

■非血縁の抹消血幹細胞移植と骨髄移植の違い 名古屋第一日赤病院 宮村耕一
・BMH:骨髄からの採取では、五十回から百回の穿刺をドナーに行い、一回十ミリリットルを採取
・PBSCT:抹消血からの採取では、G-CSFを打って抹消血内に造血幹細胞やリンパ球に増やし、高齢者へのミニ移植や骨髄繊維症には有用
・G-CSF投与後一ヶ月以内に重篤な副作用が起きたのは、海外では死亡事例もあるものの国内移植プロトコルではそもそもドナーとできない事例も多く、国内では3200件のうち20件程度で回復不能なものはなし。
事例をもとにコレステロール値と血圧からのPBSCTプロトコロルを作成。骨髄バンク基準を当てはめると女性はリスク0.5%未満、男性はコレステロール値により0.5%未満ないし1%未満のリスクにとどまる
・慢性GVHDの発生割合は、抹消血移植の方が10pp以上も多いのは事実ので対応策が今後の課題。ただし、昨年三月に非血縁者間の抹消血幹細胞移植が本邦はじめて実現したばかり
・国内において、ドナー選定から採取まで75日までかかっているのは施設側のキャパシティ問題もあり、PBSCTも増えれば短期化できるのではないか。現在は国内にPBSCT認定施設が35あるが、他先進国では使えるECP導入などの課題もまだ大きい

■ATL特命チームができて進んだ点 九州がんセンター 鴻池直邦
・ATLとは成人T細胞白血病で、HTLV-1によって起き、地域差が多い
(HTLV-1キャリアは日本に100万人以上、キャリアの生涯発症率は2-6%とのこと(Wikipedia))
・化学療法では治らず、十年でほぼ亡くなってしまう。長期生存率は4.7パーセント
・通常の移植では予後が悪い結果が出ており、ミニ移植の可能性を研究している。現状では一期と二期研究ではミニ移植後に五年で34%生存であり決して満足のいく結果ではないが、三年目以降は生存曲線がフラットになっているため完治して社会復帰できているケースが出ている
・免疫療法の開発、抗CCR抗体4といった新たな治療法もでてきている

■移植領域で使える治療薬を増やし、移植後のQOLを高めるには 国立がん研究センター中央病院 福田隆浩
・移植関連死亡は2-3割あるが、ウイルス感染対策薬と免疫抑制薬の海外で使えるものの殆どが、国内で未承認ないし適応がないという課題
・医師が主導する治験という制度もできたが、造血幹細胞移植自体年間三千件ではオーファン扱いであり、医学薬学上公知から公知申請というアプローチが現実的
・医学薬学上公知となるには、海外でのエビデンスと国内のエビデンスが必要。海外では保険未承認ながら移植時には保険で弾力的に運用して使われている場合も多くデータを個別薬ごとに集めないといけない。国内エビデンスでは、臓器移植適応などがある場合は日本人のエビデンスを蓄積しやすい
・「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の設置により検討が進んだが、海外未承認薬についてはエビデンス不足扱いになりやすいという課題は残っている
移植後のQOL低下を補正しても移植の方が期待生存率が高いという統計解析は移植を推進する根拠になるが、QOL指標の重み付けを(死亡をゼロ、健康な生存を1とするときに、GVHDあり生存をどう数値評価するか、など)医者ではなく患者が評価するように急性白血病について研究を開始

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