http://sankei.jp.msn.com/life/news/120201/bdy12020107460000-n1.htm
「ゲノム創薬」 オーダーメード医療へ期待
効き目が高く副作用が少ない薬の開発につながるとして研究が進められているゲノム創薬。がんやアルツハイマーなどさまざまな病気に劇的に効く薬ができると期待されているが、どこまで実用化されているのか。(平沢裕子)
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経済的にもメリット
ゲノム創薬は、ヒトゲノム(全遺伝子)情報を解析し疾患や体質の原因となる遺伝子を突き止め、その情報を基に新しい医薬品を研究・開発する手法。東大医科学研究所の中村祐輔教授が開発を手掛け、1月中旬にフランスで承認に向けて第1相臨床試験(治験)が始まった肉腫(がんの一種)に対する抗体薬は製品化した初のゲノム創薬になるのでは、と期待される。
ゲノム創薬の最大のメリットは、患者個人の遺伝子を調べ、その情報に基づいて最適な医療を提供する「オーダーメード医療」の実現だ。例えば、多くの抗がん剤は20~30%の患者にしか効果がなく、効かない人には重い副作用によって体にダメージを与えてしまう。遺伝子検査で事前に効果が予測できれば、効く患者にだけ薬を使うことができる。無駄な医療費がかからないという点で医療経済的なメリットも大きい。
日本初のオーダーメード医療の薬剤といわれる中外製薬の(転移性)乳がん治療薬「ハーセプチン」は、完全なゲノム創薬とはいえないが、ゲノム創薬の技術を用いた分子標的薬で、遺伝子「HER2」がターゲット。投与前に患者のHER2遺伝子を調べ、陽性の場合にのみ投与する。患者のQOL(生活の質)を低下させることなく生存期間の延長につながる画期的な薬とされる。
イメージ変えた
ノバルティスファーマの慢性骨髄性白血病治療薬「グリベック」は、異常染色体「フィラデルフィア染色体」をターゲットにした分子標的薬。慢性骨髄性白血病の95%にこの異常染色体がみられ、この薬で生存率が飛躍的に伸びた。「不治の病」と考えられていた白血病のイメージを変えた薬として有名だ。
ヒトゲノム情報の解読が完了したのは2003年。当時、治療法のない病気に苦しんでいた患者やその家族は「10年もすれば病気を完治させる薬ができるのでは」と希望を抱いた。アトピー性皮膚炎やエイズ、アルツハイマー、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病に対するゲノム創薬の開発に着手する企業が相次いだのもこの頃だ。
あと5年もすれば
しかし、約10年が経過した今、当初考えられていたほどの成果は出ていない。理由の一つに、生活習慣病など多くの疾患が一つの遺伝子の変異で起こるのではなく、さまざまな因子がかかわって起こることがある。また、1人のゲノム上には300万個以上の多様性が存在し、この中から病気の発症に関連する変化を特定するのは技術的にまだ難しいという。
それでも、がんについては今、特定の遺伝子にターゲットを絞った複数の薬の臨床試験が海外で始まっている。専門家は「あと5年もすれば、遺伝子検査とセットで、効果的なゲノム創薬が使えるようになるのではないか」とみている。
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時間・コスト減には疑問符
ゲノム創薬の開発が増え始めた10年前、ゲノム創薬は新薬開発にかかる期間やコストを大幅に減らすだろうと期待されていた。
一般的に1つの新薬が開発されるまでには10~20年の長い期間と、200億~300億円のコストが必要といわれる。それだけの時間とコストをかけても臨床試験で副作用が出て開発が中止されたり、発売後に問題が出て使えなくなったりする薬もある。実際に効果のある薬ができるかどうかは、やってみないと分からないことが多かった。
それがゲノム創薬では、ヒトの遺伝子を基に新薬候補をあらかじめ特定できるため、大幅に時間・コストを減らせるとみられていた。
ただ現在では、ゲノム創薬も「そんなに簡単にできるものではない」との考えが主流だ。糖尿病や高血圧などの生活習慣病は病気にならないよう予防するのが最も効果的なことはいうまでもない。
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