2012年2月7日

抗癌剤の健康被害は救済すべきか(日経メディカル)

日経メディカルの記事ですが、治癒に至らずに余命がいくばくか増えてもQOLは上がらずむしろ下がるような抗癌剤に対してまで副作用補填をして使用の誘引をすべきなのか、そもそもこの制度が対象としているのは患者よりも遺族の不満なのではないか、といったような疑問を感じます。年をとって死の淵に立ったらこの感覚も変わるのかなぁ。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201202/523466.html


日経メディカル2012年2月号「行政ウォッチ」(転載)

抗癌剤の健康被害は救済すべきか

因果関係や適正使用の判定の困難さが壁に

  • このページを印刷する
  • Twitterでつぶやく
  • ソーシャルブックマーク
  • この記事を友達に知らせる
 現在は対象外となっている抗癌剤を、医薬品副作用被害救済制度に含めるか否か─。厚生労働省の検討会は昨年末、「直ちに実施可能と断言できる段階ではない」とする中間取りまとめを公表した。

 医薬品副作用被害救済制度(以下、救済制度)は、医薬品の副作用による健康被害を受けた人やその遺族に対し、医療費、障害年金、遺族年金などを支払う公的制度。サリドマイド訴訟、スモン訴訟を受けて1980年にスタート。現在は独立行政法人医薬品医療機器総合機構が業務を行っている。2009年度の請求件数は1052件、支給件数は861件、支給総額は17億8000万円に上った。財源は製薬企業からの拠出金だ。
表1 救済制度の対象となる条件
抗癌剤(一部のホルモン療法剤などを除く)は(5)に当たるとされ、現在は救済制度の対象外。
(出典:第1回検討会資料[2011年6月27日開催]、編集部で一部改編)
 抗癌剤は当初から、「副作用被害の発生が予想され、それを受忍せざるを得ないと認められる」ため、救済制度の対象外とされている(表1)。だが、薬害肝炎事件を受けて設置された厚労省の検証・検討委員会の最終提言(10年4月28日)で、救済制度における抗癌剤の取り扱いを検討する必要があると指摘された。さらに、イレッサ訴訟の和解勧告を受けて細川律夫厚労相(当時)が「(抗癌剤を)適用対象とすべきという患者やご家族の心情・お気持ちは理解できます」との談話(11年1月28日)を発表した。

 これらを受けて、昨年6月に「抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」(以下、検討会)が設けられた。座長の森嶌昭夫氏(名大名誉教授)は、1970年代に救済制度の創設を提言した1人だ。

30年前と変わらぬ抗癌剤
 検討会の論点は、(1)救済制度の適用範囲(抗癌剤の種類、投与時期、健康被害の種類で絞ることが可能か)(2)抗癌剤と健康被害との因果関係の判定(3)適正使用の判定(4)抗癌剤の開発や使用に与える影響─など。製薬企業、癌の専門医、癌の患者団体、薬害被害者団体へのヒアリングも行われた。

 ヒアリングで、全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人の花井十伍氏は、「そもそも救済制度に除外医薬品があることが不満」と、抗癌剤も対象に含めるよう訴えた。日本臨床腫瘍学会副理事長の大江裕一郎氏は、抗癌剤では死亡を含む副作用が避けられないこと、抗癌剤と健康被害との因果関係の判定が困難なことなどから、引き続き対象外とするのが適切と述べた。リンパ腫の患者団体であるNPO法人グループ・ネクサス理事長の天野慎介氏は、事後的な金銭補償より、有効な治療薬に多くの患者が安全かつ迅速にアクセスできるようにすることを求めた。

 抗癌剤は、重篤な副作用が一定程度発生し、治癒に至る例が限られていても使用せざるを得ない面がある。議論を通じて明らかになったのは、こうした特徴は、分子標的薬が実用化された現在でも、大きくは変わっていないということだった。

 昨年12月27日に公表された検討会の中間取りまとめでは、抗癌剤は「他の一般の医薬品とは異なる制度運用上の課題が多くあり、現行制度の延長で直ちに実施可能と断言できる段階にはないと認められる」という慎重な表現となった。

 中間取りまとめには今後の課題として、個人への救済に限らず、より広い観点から検討する必要性が盛り込まれた。検討会は、厚労省が検討中の第2期がん対策推進基本計画や医療無過失補償制度の議論の進捗も見ながら、夏ごろに最終的な結論を出す予定だ。

0 件のコメント: